ロンドン旅行記4日目

あなたの行きたい国はどこですかときかれて、いつもイギリスと答えていた。その理由は行きたいお城があったからである。

イギリス、ロンドンに来て4日目。

ついにそのお城に向かう日がやってきた。

 

Hever Castle 、ヘンリー8世の2番目の王妃、アン・ブーリンが生まれ育ったお城である。

 

大学1年の時、ブーリン家の姉妹という本をたまたま手にとって夢中になって読んだ。

絶対的な支配者である王が、人々の宗教や思想を決めてしまう乱暴な時代、女は美しく着飾り、男の跡取りを産むための使い勝手の良い道具でいろという時代に自分の頭で考え行動し発言し突き進んだ女性、アン・ブーリンと、彼女の妹であり激動の宮廷の真ん中にいながら柔軟に敏感に考え方を変えて生き延びたメアリー・ブーリンの物語だ。

 

そして同時期にたまたま勉強していたのが、ドニゼッティのオペラ、アンナ・ボレーナの「私のうまれたあのお城」というアリア。

 

アンナ・ボレーナは、まさにアン・ブーリンをモデルにしたオペラで、偶然重なったその出会いに心が熱くなったのを今でも覚えている。

 

オペラのなかでは処刑される前に半分気の触れた状態で歌う美しいアリアで繊細で緩急溢れるレチタティーヴォも、切ない旋律が印象的なアリアも完璧に歌い上げたのが、ちょうど来日していたグルヴェローヴァというソプラノ歌手。

私はそれを聴いてこのアリアを勉強したいと思った。そしてその、私のうまれたあのお城、こそがヒーバー城というわけだ。

 

ずっと行きたかった場所へ行くということもあり朝から妙に緊張していた。朝ごはんをもりもりと食べてから準備をしてVictoria駅へ。

大きな駅でNational Railの改札が3箇所にわかれている。1-9番線はここ、10-15はここ、15-20はここ、みたいな。改札間違えたら大変そうだぞ、と自分の乗る列車を探すも、まだ何番線に着くかわか表示されていない。改札前のパネルの前には、私と同じようにパネルを見上げてじっとしている人がたくさんいたが、これがなかなかすごくて、発車2分前にようやく何番線なのか表示される感じだった。だから表示された瞬間、みんな改札へダッシュする。なんてこった。なんでそんな直前なのよ。駅員も急げーとか叫んでる。いやいやいやいや。

時間通りに決められた場所にやってくる日本の交通機関本当にすごいよ。誇りに思う。

 

そんな感じでなんとか飛び乗り、乗り換えも成功しがたんごとんと揺れる車内で車窓を眺める。Heverへ行く電車は1時間に一本くらいしかなく、乗り遅れたら大変なのだ。ローカル線みたい。

車窓からの景色も緑が多くなってきて、本の中でも田舎田舎いわれてたもんなあと思いを馳せる。

がらがらの車内ではマダム達がアン・ブーリンの話をしていて、この人達もきっとヒーバー城に行くんだろうなと思ったらやっぱりHeverで一緒に降りた。

さて、ここから事前に調べたところによると徒歩30分の道のりらしい。

歩くのは好きだからいいけど方向音痴なんだよなーと思いながらGoogleMAPを開いて歩き始めると、先ほど車内にいたマダム2人から、あなたどこいくの?ヒーバー城ならこっちよ!って声をかけられる。

なんでも駅を出てすぐに正反対の方向へ歩き出した私に驚いて声をかけてくれたらしい。良い人たちだ。

Heverで降りたのは私含めて5人で、みんな目的地は同じだったので、一緒に行きましょうということになった。

 

私たちはデジタルなんかには頼らないというおばあちゃんマダム2人とヒーバー城には何回も来たことあるというマダムが先頭になってずんずんと歩き出す。みなさんイギリスの方らしく、日本からきたというと驚かれた。マダム達はバラを見に来たのだそう。

 

しだいに道ではない小道に入っていき、がさがさ草をかきわけながら進むことになった。草をかきわけたどり着いた先には牧場が広がっていて、驚いたことにマダムはその中へとずんずん入っていく。

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木陰にはたくさんの羊!

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しーぷ!って思わず指差すもマダム達にとっては珍しいものじゃないようで、はいはい羊ね、暑そうね。みたいな感じで受け流される。

 

どうやら、本当に牧草地を突っ切っていくみたいで、これがオフィシャルな道なの!とマダムは胸を張っていう。本当かよと思いつつも羊のフンを避けながら果てしなく続く牧草地を進んだ。

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ここそもそも誰かの牧場では?牧草地では?不法侵入なのでは?と思いつつも広大な土地を歩くのは楽しくてのどかで開放感があった。

しかしながらここで先頭を歩くマダムが、出口がないわ、とかいいだすからさあ大変。

この広大な牧草地を私たちは結構歩いてきたというのに、そりゃあないぜ。

でもさーGoogleMAP開くとさー明らかに違うところに来ちゃってるの。ここはどこ、レベルのなんにもない場所。まわりには羊しかいないのよ。

まじ迷える子羊よ私たち。

 

おばあちゃんマダムたちはこのまま行く!戻るのはいや!この先には絶対出口がある!と言っていたが、この先にはなんにもないのよ、とGoogleMAPを見せて説得し、もときた牧草地を戻ったところで、出口を発見!

そこからはデジタルに頼って道を進み、牧草地を脱出。結局デジタルありがとうの巻であった。

 

なんとかヒーバー城入り口と書かれた門にたどり着いた私たち。徒歩30分のところを1時間半くらいかかったんじゃなかろうか。。。でもまあ着いたしね。いやはやいやはや。よかったよかった。

おばあちゃんマダムからはお礼にチケット代半分出すって言われたけど、既にオンラインで買っていたので大丈夫!はぶあないすでー!という感じで受付で別れた。

こういうこともあるのか。旅って。すごいな。

 

門から中へ入ると広大な公園のようになっていてなだらかな芝生がとてもきれい。のんびりとした雰囲気でピクニックをしている人もいる。

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道を進んで行くと小さな川の向こうの方にお城が見えてきた。

堅牢な外壁と十字の窓、綺麗に這わされ育っている緑色のつたが門を彩っている。

これがヒーバー城!

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美しいお城だった。

私はこういう四角いお城がとても好きだ。もう一目見られただけで嬉しくてなんだか泣きそうだった。ここでアン・ブーリンが生まれて育ったんだな。

興奮しながら入り口に出来ていた列に並ぶ。

オーディオガイドが借りられるらしい。お兄さんから日本人?日本語ないけどどーすると言われて、とりあえず英語でまわることにした。ぴえ。

私のリスニング力で展示物のあれこれがわかるんだろうか。あーやっぱ英語はちゃんと勉強するべきだったなーと過去いち後悔するも、気合いで聞き取る。なんか思いの外何を言っているかわかって楽しめた。

アン・ブーリンとブーリン一族、ヘンリー8世とその王妃達、アン・ブーリンの娘エリザベス女王についてはありとあらゆる媒体で履修済みだったからね。おたくは強いぜい。

 

城内は展示物だらけ。

ブーリン家の食卓やお忍びでやってきた王の寝室が再現されていたり

部屋の端や通路の脇に普通に大昔の家具がぽいっと置かれていたり

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蝋人形が置いてあったりして一瞬どきっとした。

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いまにも動き出しそうなんですが。

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企画展ではヘンリー8世最初の王妃、キャサリン・オブ・アラゴンアン・ブーリンの比較みたいなことをやっていたようだった。

かたやスペインの王女として生まれ、英国に嫁ぐも結婚するはずだった最初の夫をなくしたりしつつ紆余曲折の後、ヘンリー8世の激推しにより王妃となったキャサリンカトリック。後に女王となるメアリーを産むも、男の子を産めなかったこと、歳の差により妊娠が難しい年齢に差し掛かってしまったことから王に見放されてしまった。最期は貧困と孤独のなか娘にもなかなか会えず息を引き取った。

かたや成り上がり貴族に生まれ、政治的策略の基王に差し出されたアン。しかし愛人としてではなく正式な関係を王に迫り、そのことが結果としてイギリスとカトリックを断絶へと向かわせた。王妃となり後に女王となるエリザベスを産むも、男の子を産めなかったこと、斬新な考えを持ち女だてらに権力を行使したことで周りに敵を多く作り、反逆罪を問われ、首を斬られて処刑されてしまった。

1人目の王妃と2人目の王妃。アンはそもそもキャサリンの侍女だった。複雑よね。

どちらも幸せな時もあっただろうが、その最期は悲劇的で、だからこそその物語性に人々は今もなお惹きつけられてしまうのだろうな。

私もその1人だ。

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ちなみにアン・ブーリンの妹、メアリーはアンよりも先にヘンリー8世の愛人になりその子供を産むも、その子は非嫡出子とされてしまうが、その後身分はないが良い感じのイケメンと再婚して田舎で暮らしたりしている。要領が良い。

本当に対照的な姉妹だ。ぜひブーリン家の姉妹を読んで欲しい。もしくは映画を観てほしい。

 

私はなぜかやっぱりアン・ブーリンが好きだしどうしてもここに来たかった。本当に来られてよかったと思う。この美しいお城を引き取り整備してくれているお金持ちの人たちありがとう、と思いながら興味深く見学した。

本当にすごいのよ。アン・ブーリンの使ってた楽譜とか展示されてるの。彼女と最期の時を過ごしたといわれる聖書も。さすがご実家。大満足でした。写真は控えた方が良さそうな雰囲気だった。

ぼちぼち撮りはしたけれども。

城内をみてまわったあとはお庭を散歩することにした。お天気に恵まれすぎて暑いくらいでアイスを食べる。

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もりもりもられたアイスを食べながらぼうっとまた城をみたり。

憧れのお城なのでね。もう何度みても飽きません。美しい。

 

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お庭も広大でとりあえずローズガーデンを目指すことにした。ちょうど、バラが見頃らしい。

イタリア式の庭園は美しくきちんとしている。

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この庭にも幽霊が出るらしいのよ。アン・ブーリンの。でもこんな良い天気だから幽霊とは無縁だろうなと思いながらずんずん進む。

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素晴らしいお庭。そしてこの先にローズガーデンが広がっていて、ちょうど薔薇は見頃で香り高く咲き誇っていて素敵だった。見事だ。

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日本でもよく薔薇を見に行っていたが、こちらの花はどっしりと大きい気がした。そういう品種なんだろうか。そしてやはり庭は梅干しみたいな匂いもした。肥料のにおいなのかな。

この素晴らしい季節に憧れのお城に来られただけてとても幸せ。アンも薔薇が好きだったに違いないの。彼女は肖像画のなかで薔薇を持っているのだ。

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庭の先には池が広がっていてまだ先があるらしいがちょっと果てしないので行くのはやめておいた。広大だ。

せっかく憧れの城にきたので記念に写真を撮って貰った。

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一人旅でもみんな頼めば快く写真撮ってくれるし、全然いいじゃん。と思い始めた4日目。慣れたもんである。。

 

帰りにお土産物屋さんに寄った。アン・ブーリンのペンダント(肖像にも描かれている、ブーリンのB)をモチーフにしたグッズがたくさん。

アン・ブーリンのテディベアまであった。ヘンリー8世のも。怖すぎる。そんなの絶対家におけない。隣に並べておいといていいのか?怖すぎる。

ヘンリー8世と6人の王妃、みたいな肖像画が描かれた7個入りのチョコも売っていて思わず買ってしまった。

さてさて、このお土産屋さん。会計のときレジのお姉さんがなんか早口でいってきてびびったー。会計なんてもう定型文じゃない。こちとら油断してるのよ。

なんでも、私が買おうとしているパンフレットは、それより安い向こうに置いてあるリーフレットと書いてある内容はほぼ一緒らしい。そっちの方がお得だけどいいの?っとそんな感じだ。

親切すぎる。そんなぶっちゃけてしまっていいのか?

そしてお姉さんは私の回答をじっと待っているので何か喋らなきゃならない感じだ。

へなちょこイングリッシュ炸裂である。

私はパンフレットの写真も見たい。アン・ブーリンが好きで日本から来たので、これを読んで素敵な思い出を大事にする。このお城の写真が好き。

ということを伝えようとした。お姉さんは、そしたらこっちのパンフレットの方がいいね。写真もたくさん載ってるし、と納得してくれた。

伝わったー、という感覚はやっぱり嬉しいものだね。

 

一日お城を満喫し、次の問題は駅まで徒歩30分。

万が一迷った時は1時間に一本しかない電車を待つしかない。

 

行きも迷ったが帰りは1人なので心細い。

そもそも牧草地に突入のルートはオフィシャルなのか疑わしいと思いながら進むと

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やっぱり牧草地に入るらしい!!本当に??

Google map、、信じていいの?!

半信半疑。羊にものすごく見られながらずんずん歩く。羊と羊の間を通ったりしてどきどきである。羊も嫌そうだ。

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そのうちまた広大な牧草地が広がりデジャヴやんと思いながら歩く。

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絶対ちがうよー。ここオフィシャルな道じゃないよー。ただの牧場だよー。出口どこだよー。。。

と思ったら、、これですよー。出口。

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おもむろに貼られたシール!

National Rail はこっち、じゃないよー。

牧草地つっきるのオフィシャルなんかーい。

しかし出口を見つけられて本当によかった。

見つけられずに通りすぎていたら牧草地を1人で彷徨うところだった。

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無事駅に到着!

今日は特にアクシデントもなくロンドン市内に戻ることができた。

 

ちなみに自分用のお土産にはアン・ブーリンのあひるをかったの。このあひるを見るたびに今日のことを思い出すんだろうな。

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ホテルに帰って寝る前にアンナ・ボレーナの私の生まれたあのお城、をきいた。そしてそのまますやすや寝た。